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時効の援用、どうすればいい?

 

みなさん、こんにちは。司法書士の岡村です。

あっという間に2021年も半分が過ぎてしまいましたね。

外出すると汗が噴き出すようになりました。

事務所では、朝一アイスコーヒーをいただくのですが、最近は一段と美味しく感じます。

 

さて、前回の私のブログでは、消滅時効についてお話しました。

その中で、時効の効力を発生させるには、「時効の援用」が必要であるとご説明しました。

では、「時効を援用する」とは、具体的にはどうしたらいいのでしょうか。

 

法律上、時効の援用の方法は定められていません。

直接言う、電話で伝える、手紙を出す・・・

どの方法でも、時効援用の効力はあります。

しかし、口頭で伝えることはおすすめしません。

後日、たとえば相手方と裁判になった場合に、時効を援用したことの証拠がないからです。

 

私たち司法書士が、依頼者の代理人として時効の援用をする場合には、相手方に内容証明郵便を送ります。

内容証明郵便とは、いつ、どんな内容の文書を誰から誰あてに差し出したか、ということを郵便局が証明してくれるものです。

内容証明郵便で送っておけば、言った言わない、というトラブルを避けることができます。

 

 

ただ、時効期間経過後に時効の援用をしたからといって、必ずしも時効の効力が発生するとは限りません。

時効には、「時効の更新」と「時効の完成猶予」という規定があるからです。

 

「時効の更新」とは、これまで進行した時効期間がリセットされ、新たに時効期間が進行することをいいます。

「時効の完成猶予」とは、所定の期間、時効の完成が先延ばしされることをいいます。

 

 

事例で考えてみましょう。

Aさんは、消費者金融から借り入れをし、返済を続けていましたが、収入の減少により返済ができなくなってしまいました。

返済が滞って、消滅時効の期間が経過する前に、借入先の消費者金融から、借金の返済を求める裁判を起こされました。

しかし、Aさんはどうしたらいいかわからず、そのまま放置してしまいました。

その後、本来の時効期間が経過したため、Aさんは時効の援用をしたいと当事務所へ相談に来ました。Aさんは時効の援用ができるでしょうか。

 

結論としては、Aさんが時効援用できる可能性はほぼありません。

裁判手続きで、Aさんが何も反論をしなければ、全面的に貸金業者の主張を認める判決が確定することになります。

そして、判決が確定した時から、消滅時効の期間はまた新たに進行を始めます。

これが「時効の更新」です。

つまり、返済が滞ってから数年経っていたとしても、判決が確定した時点で、その期間はなかったことになる、ということです。

また、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するもの(裁判上の和解、調停等)により時効が更新された場合には、もともとの時効期間が10年より短いとしても、10年となります。

 

よってAさんは、判決が確定してから10年経過するまでは、時効の援用ができません。

このまま放置すれば、財産を差し押さえらてしまう可能性もあります。

返済できない場合には、債務整理を検討する必要があるでしょう。

 

なお、貸金業者が何らかの理由で訴えを取り下げたとしても、手続きが終了してから6か月は時効が完成しません。これが「時効の完成猶予」です。

よって、時効期間が経過するギリギリで訴えられた場合には、時効期間が延びることになります。

 

時効期間が経過したと思い、時効を援用したものの、実は途中で裁判を起こされていて時効が完成していなかった、というのは、ときどきある話です。

特に、裁判所からの手紙は放置せず、専門家に相談するようにしましょう。

 

当事務所では、時効援用のご相談を承っております。

お悩みの際はご相談ください。

 

司法書士 岡村浅黄

借金の消滅時効、何年で成立する?

 

みなさん、こんにちは。司法書士の岡村です。

6月に入り、夏の気配を感じますね。

私の家の近くには、毎年紫陽花がたくさん咲く花壇があります。

5月末頃から、ピンクや青の花が少しずつ開いていく様を、毎日楽しみにしながら通勤しています。

 

 

さて、今日は「消滅時効」についてお話しします。

「消滅時効」とは、一定期間の経過により、権利が消滅することをいいます。

一口に消滅時効と言っても、対象の権利がどのような権利か、どのような原因で発生した権利か、によって規定が異なります。

今回は、個人がお金を借り入れた場合に適用される規定をご紹介します。

 

 

2020年4月、民法の改正により、消滅時効の規定が変更されました。

契約日が改正の前か後かによって、取り扱いが異なります。

 

まずは、現行(改正後)の民法の規定をみてみましょう。

 

【民法166条1項】

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

①権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。

②権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

 

債権とは、ある特定の人に、ある特定の行為や給付を請求することのできる権利をいいます。

たとえば、金銭の支払いを請求する権利、物の引渡しを請求する権利などがあります。

 

貸金業者が債務者(お金を借りた人)に返済を請求する権利も債権です。

貸金業者は、いつから返済を請求できるか(返済期日)をわかっているはずですので、返済期日から5年で消滅時効が成立することになります。

 

この消滅時効の規定は、2020年4月1日以降の契約に適用されます。

 

 

他方、改正前の民法では、次のように規定されていました。

 

【改正前民法167条1項】

債権は、10年間行使しないときは、消滅する。

 

2020年3月31日以前の契約には、この改正前民法の規定が適用されます。

とすると、改正前の借金は、10年経過しないと時効にならないように思えますが、必ずしもそうではありません。

商法という別の法律に、次のような規定がありました(民法改正に伴い削除されました)。

 

【改正前商法522条】

商行為によって生じた債権は、(中略)5年間行使しないときは、時効によって消滅する。

 

消費者金融や銀行等の会社の事業は、商行為にあたります(会社法5条)。

よって、これらの会社からの借金は、改正前商法の規定に基づき、5年で時効となります。

なお、信用金庫や住宅金融支援機構等からの借金は、商行為にはあたらず、時効期間は10年です。

信用金庫等からの借金については、改正により時効期間が短くなったことになります。

 

 

消滅時効の期間が経過すると、債務者としては「もう支払しなくていい」と安心してしまうかもしれませんが、時効期間が経過しただけで自動的に権利が消滅するわけではありません。

前回記事「取得時効が成立する要件とは?」でもご説明したとおり、時効の効力を発生させるには「時効の援用」が必要になります。

 

「時効の援用」については、また次回の私のブログでお話しします。

 

司法書士 岡村浅黄

取得時効が成立する要件とは?

 

みなさん、こんにちは。司法書士の岡村です。

ゴールデンウイークは、いかがお過ごしでしたか?

私は何の予定もありませんでしたので、読書に興じることにしました。

今は本屋さんに行かなくても、読みたい!と思った瞬間に電子書籍で読めるようになりましたね。

以前は断然紙の本派でしたが、最近は電子書籍も積極的に活用しています。

手軽なのは良いですが、積読が増えがちで困ります・・・

 

 

さて、前回のブログで、時効には刑事上の時効と民事上の時効があるというお話をしました。

今日は民事上の時効のうち、「取得時効」についてご説明したいと思います。

 

「取得時効」とは、民法162条1項に以下のとおり規定されています。

 

「20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」

 

「所有の意思」とは、自分の所有物にしようという意思です。

たとえば、誰かから借りた物のように、所有者がほかにいると認識して占有を続けても、所有の意思があるとはいえず、時効とはなりません。

ちなみに「占有」とは、自分の支配下におくことです。

 

「平穏に」とは、暴行強迫などの行為によらない、つまり無理やり奪ったような場合ではないことをいいます。

「公然と」とは、占有を隠匿していないことをいいます。

こっそり隠れて占有していたような場合には、「公然と」とはいえません。

 

さらに、占有を始めたときに自分のものであると信じ、かつ信じていたことに過失がなかった場合は、時効期間は10年と短くなります(民法162条2項)。

過失とは、調査や確認をすべきだったのに、それを怠ったことを指します。

たとえば、対象が不動産の場合、登記簿を調査すれば他人の物であることがすぐにわかるはずだった、という状況下では、自分の物と信じて占有を始めたとしても、時効期間は20年となります。

 

なお、時効期間が経過したからといって自動的に所有者が変わるわけではありません。

「時効で私が所有権を取得しました!」と主張する必要があります。

これを「時効の援用」といいます(民法145条)。

時効の援用により、所有権を取得した人は、占有を始めたときから所有者だったことになります。

 

 

不動産を時効で取得した場合には、自分の名義に変更(所有権移転登記)をすることができますが、原則、元の所有者と共同で変更の手続をしなければなりません。

元の所有者は自分の権利を失うことになりますから、手続に協力しない場合もあります。

その場合は裁判手続を経なければ所有権移転登記ができません。

 

法律の規定があっても、それを実現するのはなかなか大変なこともあるのです。

 

次回は、「消滅時効」についてご説明します。

 

司法書士 岡村浅黄